TAP, プランク・ゼロ

イーガンの短編集『TAP』は、やっぱり最後に収録された表題作がいちばん読み応えがあった。母と子の対話を絡めてくるところがウェットでいい感じ。地味でドライな探偵モノ(まあ多少はアクションもありますが)のスタイルは、良質なテレビシリーズの1エピソードを思わせる。『LAW&ORDER』みたいな雰囲気でアイディアだけもらって、近未来警察テレビシリーズみたいなので作ってくれないかしら。

他の作品は、正直これじゃあなあ、と思うものも多かった。しかし初期作品やらホラー作品やら、とにかくイーガンの本になってない作品をひろってきましたっつうことなら、仕方ないか。

そしてバクスターの『プランク・ゼロ』。

なぜか、本当になぜか、いままでバクスターに手をつけてなかった。ニーヴンとかブリンとか大きなSF大好きだったのに、ふしぎとバクスターは「世界観がデカすぎて地に足がついてなさそうだし、シリーズのどこから読んでいいのかわかんないし」みたいなコト勝手に思って、とっかかれずにいた。

ひどい判断だった。猛反省。これムチャクチャ、ニーヴンのにおいがする! はじめて、テレビの『スタートレック』から本のSFに移ってきたときの、あのニーヴン短編集のわくわく感がよみがえってくる。確かにSF読み始めの頃は、ニーヴンは楽しくてもバクスターの物理学やら宇宙論やらをいじくり回してデタラメやる馬鹿話は、ちょっと敷居が高すぎたかもしれない。けど、今ならわかる。バカ話をバカ話と見抜いて楽しむ能力の幅が、広がってきたんだろうな。

物語の筋的に、すごく尖がったことをやってるわけじゃない。ニーヴンの銀河の核へ行ってくる話の代わりに巨大重力源に行く話があるし、地獄で立ち往生みたいな話もある。『クォグマ・データ』も、結局はどこかで読んだような、ウェットな失われた文明話だ。でも、そこに壮大な宇宙のビジョンを混ぜて、ユニークな異星生命体で飾ってくれれば、おいしくない筈がない。それに、どんな未来の話でも、人類は20世紀の人類と同じ(外見は変っても中身はおんなじ皮肉屋でバカで向こう見ず)に描いてくれてるから、理論に加えて感情もアクロバティックに飛ばす必要がなくて、疲れずに読める。

これはイイ。ぜひ長編もあさらなければ。