SEX AND THE CITY:THE MOVIE

男が独りで観に行けない映画に独りで行くシリーズ第1弾。深夜の市街地のシネコンにはほとんどジャージみたいなゆるーい普段着の30台女性友人どおしがたっぷり。正しい鑑賞姿勢だと思った。


もう10年近く前になるのか、テレビシリーズを観て、それまで『ビバリーヒルズ90210』や『メルローズ・プレース』をイージーでつまらないなんて言ってた自分を深く反省した記憶がある。同じダレン・スターの作品なのに、ここまでクオリティが高いのか、と。

30分の枠の中で、まずひとつのテーマを提示する。そして4人のキャラクターのそれぞれの連続する日常の中から物語が立ち上がり、交じり合いながら展開し、結末も4人それぞれ異なる情景を見せつつ、すべてが提示されたテーマに全てぴったりと沿ったものとなる。ファニーで奇麗で、ただテーマは決して浮世離れしたものでない、誰の心にもすとんと染み入るもの。手品を見せられているような感じだった。

グレン・スターは素晴らしいクリエーターだ。SEX AND THE CITYの緻密さを見せ付けられれば、グダグダのソープオペラの典型だなんて思ってた90210だって、きちんとターゲット視聴者を絞って、シリーズを牽引する物語と絵作り、トリックが綿密に計算されていたと思うしかない。つまらないドラマが10年も続くことは無いのだ。


それはそれで思い出話。今回の映画版、テレビ版と一部も違わないリズム感・絵作り・演技で、大安定の作り方だった。4者4様の「フォーティ・サムシング」(なんて言いかたは古いのか)の人生の転換点をこ気味よく描いている。メインプロットになるキャリーの「40での結婚」に、ミランダの「浮気と離婚」、シャーロットの「出産」、サマンサの「若い男との恋愛の終焉(これは暗示的だけど、セックスの終焉なんだろうな)」。どれも笑えて、泣けて、納得できる。
個人的には、頭ではミランダに共感しつつ、本能的にはシャーロットが(半分ウザいと思いつつも)可愛いと思えてしまうというところも、テレビシリーズと同じだった。凡庸な男目線ですみません。

フィルムも実際テレビ撮影と同じじゃないかという撮りかたで、映画ならではの何かは無い。たとえば出てくるファッションが物凄く奇麗に撮られていたりとか、感情を深く表現する凝った絵が出てくるわけじゃない。そういうのも観てみたい気はしたけれど、既にフォーマットの決まったテレビシリーズに斬新な表現を当て込んで新しい映画に仕立てるには、冒険が過ぎるんだろう。テレビシリーズの印象を一部も壊さず、出だしから大団円まで、テレビシリーズの1エピソードを正しく拡大延長した作品だった。

個人的に凄いというかズルいなと思うのは、キャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)のメイクを落とした40歳の顔をしっかりと撮ってるところ。これを大画面できちっと見せつけられるだけの度量があるから、オーバー30の女性向け作品としてこれだけ受け入れられたのかと思う。
反対にミスター・ビッグとの抱擁シーンでは、キャリーはテレビシリーズで何度か見せたようにヒールを脱いで、男女の物凄い身長差を作り、「少女のように可愛いキャリー」を見せつける。この身長差による可愛さ演出は、本当に効くよなあ。

セレブなドレスを着込んだポーズも、皺だらけの素顔も、ちっちゃくて男が無条件で抱きしめたくなるその体も、みんな同じ、ひとりの40歳の女性。愛されるキャラで無いわけがない。テレビシリーズを観ていても、観ていなくても、良いキャラクター、良い世界観に浸れる映画だ。