大奥 3

よしながふみの漫画。2巻では、これは両方とも女性な恋愛劇なのかなと思った。女性の家光は意思に反して閉じ込められ、暴行を受け出産し、その子供は息をしないという典型的な“いじめストーリー”を経験する。かたやの坊主 有功は、大奥という異世界に押し込められ、これまた女性的なドロドロの中を懸命に生き延びてゆく。感覚的には同じ苦労を経験したふたりが、やがて深い情で結ばれる。だからロマンスの感動も2倍凄いんだ、と。

これが3巻に来て、物語は「恋愛成就後の世界」を描き出しはじめた。家光が“可哀想な女の子”から抜け出して動き始める。男性のみが狙われる疫病が蔓延し、男系社会が崩壊してゆく日本。もはや終末の悲壮感すら漂う江戸の世で、彼女はひとりの人間として才覚を顕し、認められ、本当の“将軍”へと成り上がってゆく。描かれる顔つきも変わってゆく。出産を経た家光は、母の顔と将軍の顔の両方をミックスした凄みのある顔へと、劇的に変わってゆく。

これは典型的な大河ドラマだ。凄い時代劇だし、ゴテッゴテに凄いソープオペラだと思う。そして歴史改変SFとしても楽しい。最後の数ページは読んでいて涙が止まらなかった。個人の悲しみとか、愛の成就がどうこうとかいう涙じゃない。世界が変わる様と、ひとりの人間が成長する様が一体となって押し寄せてくる、その感動だ。いやーNHKでやってほしいぞ、『大奥』。

ああ、これが年に1巻しか出ないのか……。