狐狸庵食道楽

狐狸庵食道楽 (河出文庫)
月に1冊ぐらいは食に関する文庫本を買うんだが、これはちょっと失敗だったなあ。
没後10周年ということで遠藤周作の食に関する文章を集めたとのことだけど、焦点がまるで食に定まってない。遠藤周作で食道楽なんだから面白いに違いないと表紙買いした僕が悪かった。

だいたいあとがき(加藤宗哉)で、遠藤周作は美食家ではなく、三百を超える著作には食物をテーマとしたものはない。と言ってるんだからタチが悪い。あまり食に拘らなかったヒトの文章から、強いていえば食に関する部分をむりやりかき集めてきたんだ。いやズルいよこれは。残念ながら全部楽しんで読む気にはなれなかった。はじめてAmazonへのリンクをつけたけど、いきなりケナしてどうする。

ひとつ面白かったのが、168ページ。豪華客船でダラダラしながら大連に向かった遠藤は(1985年頃)、こんなことを書いてる。

その時、私はたとえば日本の社会福祉が行き届いて、定年以後の老人や老女がこのクイーン・エリザベス号と同じ生活を毎日送れるようになる日を考えていたのだった。食事の心配もなく、余暇をたのしむすべての条件が与えられるような毎日が彼らに来る。
その時、彼らは私と同じように遂には空虚感をおぼえないだろうか。退屈しないだろうか。林檎の腐ったような臭いをその生活から嗅がないだろうか。

そんな毎日は来そうにないし、ないからこそ、いま、腐った臭いを嗅いでいる。