硫黄島からの手紙

地獄は穴掘って始まり穴掘って終わるんだ。そういう物語。斬九郎目当てか、それとも戦争経験からか、おばあさんの観客が多かったんだけど(ラスト・サムライもそうだったな)、ちょっとシビアすぎじゃなかったかね。

素晴らしいのはやはり栗林斬九郎陸軍中将。あの口調はだれが演出したのかしらないけど、しょっぱな島を車で案内すると言われ、「いや、健康のために歩きましょう!」とカラッと語る彼にホレた。帝国軍人にこの人物造形とは、よくぞやってくれたと思う。

栗林以外にも、ブラックユーモアが素晴らしい。艦砲射撃のなか便器バケツを拾うシーンは、岡田あーみんの沖縄艦砲射撃に匹敵する爆笑シーンとして、艦砲射撃ギャグ史上に燦然と輝くと思う(そんな歴史ない)。日本刀と特攻を好む帝国の魂を体現したようなアホ軍人が生き残ってしまうのも、戦場の途方も無いバカらしさが感じられて印象的だ。

そして便器バケツシーンから始まる地獄は、目を離せない。ほんとうに神話的な地獄絵を観てる様だった。彼らの被る苦痛は延々と降り注ぐもので、原因となるロジックが見えないから。戦争が、そして歪んだサムライ魂などというものが、いかに無意味に人を殺してゆくかを、鮮明すぎるビジュアルによって理解させてくれる。戦争なんて、ぜったいやっちゃあいけない。素直にそう思える。よい映画でした。

ところでスタッフロールで驚いたんだが、これ脚本/プロデューサーがポール・ハギスじゃん! 『EZストリート』とか『マイケル・ヘイズ』なんて渋いTVシリーズ(いずれも打ち切り)で記憶に残ってたけど、いつのまにか映画作家になってたのね。うれしいなあ。

それから戸田せんせいは、これさすがにおカネぜんぶ貰ってないよね? 『父親たちの星条旗』とあわせてナンボとかだよね? ね? ね? これで映画一本分の料金が発生するならさすがにずるいと思う。