ザ・フルムーン

 こちらも中国映画祭。監督は陳力。北京を舞台に、中央のエリートの中年女性が、キャリアの為に下町の町内会の主任となって、そこで庶民とあれやこれや、という話。

 基本的にこのお話に惹かれたのである。中国映画の何が面白いって、市民の描写なわけで、しかも北京の下町には自分も3ヶ月と短いながら住んでいたという特別の思い入れもある。シャワーも良かったし、アイ ラブ 北京も一般的な映画としては超ツマんなかったろうが、僕的にはヒットだった。北京の今を生きている人々が見えて、共感できたから。

 しかし! この映画はダメだ。何故なら説教臭かったから。昔ながらの中国観を今でも持ってる日本人が観たら、これは共産党のプロパンダ映画だといわれてしまうかもしれない。

 映画の中に、アメリカ人夫婦が出てくる。夫婦は町内会の老婆のお節介をプライヴァシーの侵害だと怒るのだが、老婆をフォローするために主人公は英語で夫婦に「中国と米国では様々な物事の概念が違うのです」と説く。そして最後に老婆が息を引き取り、夫婦は都合良く理解する。「中国では“助け合い”の精神が重要なんだね」

 これは、シラける。

 哀しいことだが、自意識過剰なのだ。「自分達は誤解されている。社会主義だ人権だとかで、まるで13億の異常な人々のように世界じゅうから思われてるが、違うんだ。世界は我々の本当の姿を知らない! 知らせなければ!」そんな思いが激しく放出されている。それが鼻について、映画の魅力、北京の魅力を逆にぐーっと下げている。

 この自意識過剰病は中国だけじゃない。日本は30年前からコレに罹って、中国と全く同じ事を欧米に向けて言ってる。韓国も同じ。そんな大声張り上げて「我々の文化は素晴らしいんだ! 我々の道徳は西洋では理解できないだろうが筋の通った物なんだ! 我々の政治/経済制度が欧米より劣ってるなんてことないんだ!」なんて宣伝せんでも、わかってるひとはちゃーんとわかってるし、わからん人には逆効果なだけで、実際の効果は全く無いと思うのだが。叫びたくなる気持ちも、よくわかるけど……。

 映画祭、もっと面白い映画もあったそうで、びんぼうくじひいちゃったかな。