26日の日記の続きですが。

「日本の本読みたい病」は最近発病した病気だけど、このほかにもうひとつ夢に影響を与える病気として、僕は「日本のテレビ見たい病」ってのにかかっている。正確に言えば「日本の関西系深夜お笑い番組見たい病」(Frustration for Japanese Kansai-style midnight comedy TV program) だ。英語に特に意味は無い。こっちの方は、特定のテレビ番組が本に比べて更に手にしづらいこともあって長い病歴があり、現在では症状をかなりコントロールできる。というより発病以来対処方法を自分なりに学んで、利用できるまでになった。

 この病気の症状として起こる夢は、基本的に、3つのフェイズに分けられる。

  1. 特定のテレビ番組が再現される
  2. それを見て笑っている自分がいる
  3. 笑っている自分を見て、そのテレビを見られないため悔しい思いをしている自分がいる

最後の部分が分かりづらいかもしれないけど、この夢では自分が2つ存在している。夢では良くあることで、なんつうか、夢の世界が入れ子構造になっているのである。第2段階の世界を、第3段階の世界の自分は「見る」、それも目を使ってではなく何らかの方法で「知る」、ことができるのだ。まあ誰の夢にもあることだと思うんで、説明するまでもないか。ともかく、日本から離れてだいぶ経つと、このタイプの夢をよく見るようになってくる。

んで、何が問題かといえば、その夢から醒めたときの、なんつうか、読後感が悪いのだ。第3フェイズでの自分の感情をそのまま引きずってしまうのである。解決方法はひとつ。第3フェイズを見なければ良い。どうやって? 簡単。見ないように意識することだ。

これもよく知られたことだけど、夢は睡眠状態に移る直前の思考によってかなりコントロールできる。なにかきょうあった印象深い事件を思い出し、アレコレ考えながらウトウトすると、覚醒時は制御していた思考が睡眠に入ることで制御できなくなり、その事件の架空の続き(つまり妄想だな)が夢になったりするのだ。この手法を使って、眠るときに意識的に「観たいテレビ番組」のことを思い出す。そしてココが肝心なんだけど、決して「観たいなあ。観られなくて残念だなあ」と考えてはいけない。純粋に、その番組がいかに面白かったかを思い出すのだ。余計な思考は厳禁。これで(こんな簡単なことで)、夢の第3フェイズは防ぐことができる。要は、ネガティブな夢を「観たくない」と思えば、実際に観ることは無いのだ。
注:だからって「怖い夢は見たくない」っつうのは難しいです。

そうして観られるのが、特定のテレビ番組の、今まで観たことも無い内容である。具体的にいえば、僕の場合は『パペポTV』だ。笑福亭鶴瓶上岡龍太郎の、ありもしないトークが夢の中で繰り広げられるのである。番組のトークにはパターン(多分後期のスタイルだと思うけど)があって、再びリストすると、

  1. 鶴瓶が日常あったことに理不尽に怒る/疑問を掲げる。
  2. 上岡がそれに非常に理性的にツッこむ。
  3. 上岡は自分のツッコミから科学的な理論(多くの場合デタラメ)に基づいた考察を広げる。
  4. 鶴瓶がついてゆけなくなり、上岡から離れひとりでぼやく/パントマイムする/客と会話する。

と、こんな感じになってる。あと例外的に、上岡龍太郎が妙な歌を謡う、というのもあるが。

この黄金パターンがあるので、夢での再現はかなり簡単だ。ここにネタを放り込むだけでなんでも笑える。そしてもちろん、そのネタは「夢」の方が勝手に決めてくれる。覚醒時に欲を出してアレコレ具体的な「見たい夢」を考えないで、「思い出す」にとどまっておくのがコツである。実際、夢の中のトークに、はっきりとしたネタがあるかどうかも怪しい。中身の無いトークのフォーマットだけが再現されて、それを意味もなく笑っているだけなのかもしれない。しかし肝心なことは、面白かった、ということである。この夢が終わって半覚醒の状態に戻ってきたとき、あるいは翌朝目覚めてふと思い出したときに、そこにあるのは「テレビが観れなくて悔しかった」ではなく、「(架空の)テレビが面白かった」という印象なのだ。

また、この夢で見る「架空のテレビ」というのは、ある意味高度なシミュレーションであるともいえる。ニューラルネットに蓄積された大規模データをロードしながら、別のランダムに選ばれたデータをもって生で加工しながら動かすという。次世代コンピュータのモデルは脳であるというのは、こういうことなのかもしれない……んなわけねーか。

余談ながら、パペポTV以外にも、探偵ナイトスクープを見ようとしたこともある。しかしながら、福井さんが一句詠んだり、キダタローが探偵をバカにしたりはできるのだが、肝心の探偵の調査の方が、状況にパターンが乏しく、また各探偵のパーソナリティについて不明な部分が多いのため、再現にいたっていない。ああ。関西に生まれ育ってればもっと芸人に馴染んで夢に出せるのに……。

以上、故郷から遠く離れた男の密かな一人遊びでした。しかしこうやって書いてみると、まるで変質者のようだ。