異星人の郷

中世ドイツの村に墜落した異星人と村人とのと、彼らの存在を現代から解き明かしていく学者たち。久々に心引かれる設定で読み始めたが、期待以上の素晴らしい読後感だった。
構成的にはほとんどが中世編で、村人の生活や世界情勢が丹念に描かれる。ちょっとキャラや状況がわかりづらかったり、描写が平坦なところもあるけれど、むしろそれも演出なのかもしれない。中世ドイツ人の視点を通して、高度な文明を持ちながら遭難し追いつめられていく異星人の生態と感情が、ゆっくりと、染みるように伝わってくる。読み進めるうちに、ドイツの農村にたたずむ異形の生命の絵が、とてもリアルに、美しく、見えるようになる。
異星人との交流役をキリスト教の僧としたのも面白い。宗教的な誤謬に満ちた宇宙観が、不完全な翻訳を通じて科学的な宇宙論に合致してしまうのは洒落としても楽しいし、そんな奇妙な交流から、心の交流と魂の救済が始まるのは、SFならではのダイナミックな視点の転換だ。そんな転換も、静かに、ごく当たり前のことのように描かれている。
そして最後、いままでオマケだった現代編の主人公が物語を閉じ、ここで物語は本当のSFになる。悲劇に終わった遥か昔の交流譚が、彼らによって、まっすぐに未来へと、宇宙へと繋がる、希望に満ちたファースト・コンタクトの物語となる。中世の丹念な描写に支えられ、時を越えた感動がここにある。