時間封鎖

読了はずいぶん前だけれど、書いておこう。ロバート・チャールズ・ウィルスンのSF。ヒューゴー賞受賞。

時間の流れの速い惑星に行く物語はむかしからあるけれど、これはその逆バージョン。とてもよいSFだった。テレビで言えば、スタートレック:ヴォイジャー『超進化惑星の煌き』にも、感動の源泉を同じくするところがある。

現代を舞台としているため人物描写は地に足が着いていてわかりやすいし、地球規模の“災厄”の描写も見事。設定は科学的に甘めにしているので、なんだろうと立ち止まって考える(味わう)必要もなく、ぐいぐいと引き込まれ、落としどころもバッチリ心得てる。いやあ、火星の顛末は素直にガツンと来たね。巧い。いい気分だ。映画的で、SFを読まないひとも十分楽しめると思う。

ただ、2000年代SFとしては、今回のオチは弱い。80年代のおっきなSFと同じノリだ。その点、あとがきで比較されているイーガンの小説のダイナミズムは、1光年先を行ってると思う。ただ、本作は三部作(またかよ!)だというので、その後をどこまで引っ張ってゆくかも見もの。作中KSR火星三部作の名前が出てきたけど、ブルー・マーズみたいにはするなよ! ちゃんと最後まで訳してくれよ!

で、さいごに訳者あとがきなんだが、ちょっとこれは書きすぎじゃないだろうか。翻訳はじゅうぶんだと思うんで文句はないんだが、あとがきの書きざまは、なんというか……ヘンな例えだけど、漫画を読んで小説を読まないひとが、漫画は小説よりも優れている! と言っているのに近い感じがする。

参考程度に読んだイーガンの小説に、“時間傾斜のアイディアは導入されていない”とか、本来比較ポイントになりえないところで、他作に比べて本作は優れてますよ! と読み取れかねない書き方をするのは、おかしい。知らなかったところは知ったかぶりしてごまかすのが、巧い翻訳者じゃないのか?