バトルスター・ギャラクティカ 第7話(シーズン1-3)『囚人ザレック』

超ネタバレ


――アダマ艦長とロズリン大統領は、護送船に乗り合わせていた囚人たちを、衛星からの水採掘の労働力に使う事で合意する。その説明と志願者の募集のため、リーが大統領全権特使として護送船に向かうが、囚人たちの中には貧困殖民星サジタロンのテロリスト、トム・ザレックがいた。ザレックに率いられ、囚人たちは瞬く間に船を掌握、リー達を人質とする。そしてザレックは、大統領の辞任と総選挙を求める――

ギャラクティカの方向性を決定付けたエピソードだ。このエピソードにはサイロンとの宇宙戦闘は一切出てこないし、サイロンや地球の謎が解けたり深まったりすることも無い。今回のエピソードの主人公は、大統領顧問のリーと政治犯ザレック、そして生存人類の長たるロズリン大統領である。彼らが行うのは、政治サスペンスなのだ。

新しいギャラクティカは単なるアクションドラマではない。謎が謎が呼んでクリフハンガーで繋いでゆく、流行の『Lost』や『24』のようなドラマではない。このエピソードはそう宣言した。ギャラクティカはそれらを内包して、さらに5万人の人類社会の政治や社会問題もを描く、大河SFなのだ。

極論を言えば、これはギャラクティカが「実はスタートレックなんですよ」と言ったようなものだ。スタートレックも、単なる宇宙活劇にとどまらず、異星人ひしめく宇宙というエキセントリックな舞台から、現代人にも通じる社会問題をえぐり出したから、そういう意味でSFだと言われたし、高い評価も得た。同じだ。5万名の宇宙を放浪する人類という状況を深く幅広く考察し、時にはアクションを、時には社会的なテーマをもって表現し、この物語は重厚なSFとなっている。

エンディング近く、リーの報告と決断を聞いたロズリンは、とてもチャーミングだ。彼女は自分に不利と思える決断を聞いているのに、さも楽しそうに微笑むのだ。

彼女は人類滅亡の際で大統領となり、あまりに異常で過酷な環境の中から一歩いっぽ秩序を作り出してきた。そしてついに、政敵の出現と政治のルールにのっとった駆け引きができるという“正常な”状況と遭遇し、心底楽しげに微笑む。この笑顔で、僕はギャラクティカの軸がどこにあるのかを強烈に意識した。

一方、軍事のルールの中にいるアダマ艦長は、大統領とは対象に硬い顔しか見せないが、息子であるリーが自分の立場を決断したこと……艦長側大統領側どちらか側に付くというのでなく、自分で自分の立ち位置を作った事……に対して、感慨深げにつぶやく。どちらもすばらしい演出だ。