バトルスター・ギャラクティカ 第5話(シーズン1-1)『33分の恐怖』

思い切りネタバレなんで「続きを読む」に。


――ギャラクティカを中心とする人類の脱出船団は、33分おきに必ず出現するサイロンの追撃に疲弊しきっていた。攻撃から超光速ジャンプで脱出するたびに、船団の遭難の危険性は高まってゆく。ポスト・ホロコーストの絶望感に加え、絶え間ない攻撃とジャンプで追い詰められてゆく生存人類。その数わずか5万名。そして、遂に1隻の貨物船がジャンプ後に姿を消した――

なんといきなり心理サスペンス色の濃厚な仕上がり。艦隊戦闘シーンをダイレクトに絡めて心理サスペンスをするっつうのはある意味すごくアクロバティックなエピソードだ。クセが強くて見方を戸惑うかもしれない。

以下つらつらと感想を。

  • 通路に行方不明者の写真がたくさん貼られてるところは、モロにポスト911というか、こういう絶望描写(演出も含めて)のできるテレビSFって確かに無かったよな
  • でもそれ以上にグッとくるのが、大統領が、事あるごとにホワイトボードに書かれた生存全人類の総数を書き換えてゆく描写。この演出を考えたヤツは天才だ。
  • そんな地に足の着いた絶望感の描写が大好きです。
  • スターバックとアポロのハンガーでの口論パートは“コボル語”的にみどころ
    • 「隊長」とされてる“CAG”(キャグ・普通に聞いたらほとんど言葉として聞き取れないよコレ……)はコマンダー・エア・グループの略称。コボル世界でのみ通じる略語のひとつ。
    • Fuck のかわりに "Frack" て言ってる。独特の言い換え。通常だとfrickや、イギリス系だとfackなんて使ったりするけど、これも逆手にとって作品世界にらしさを出してる。
    • 「仕留めろ」という訳は巧い! 原語では "good hunting" で、これは出撃の時のコボルの定型句(祈りの時のアーメンに変わるのは "so say we all")。字幕の字数制限の中でハンティングのニュアンスを出すには、仕留めろはベストでは。
  • バルターの「偶然の出来事は必然的に起こっている。予期されたものでパターンの一部だ」って字幕翻訳も、さらっと流してるとこが芸というか。原語で言ってる serendipitous ってマトモに意味とかニュアンスを考えるとどうしてもひっかかるもんな。
  • ナンバー6とバルターの会話はかなり宗教論に偏った話。原語演出では丁寧に“神は単数でも複数でも”ってセリフを作って、人類側が "Gods", サイロン側が "God" と、信仰が本質的に違うことに気づかせてる。
  • クライマックスの緊迫感は物凄い。鳴り響くドラム。これぞギャラクティカ

エンディングなんですが、DVDのコメンタリによると、当初は「船の中に満員の人が見える」予定だったらしい。あまりにも絶望的なんでさすがに取り消されたそうだけど(おかげでカットつながりと演出がチグハグになってるようにも見える)、こんな容赦の無い虐殺描写をテレビシリーズでやろうとした根性は見上げたもんだ。

次回はちょびっとだけ(ほんのちょびっとだけ)冷たい方程式。