耳コピ不条理時代。

こないだ熊坂(本サイトで唯一固有名詞の出る古くからの友人。趣味:包丁の刃の横をべろーりと舐めること)から電話がかかってきた。なんだ? 「俺よう、もうだめだよ……」 どうした? 「なんかよう、俺のバンドによう、俺よりベースの巧いヤツが入ってきてよう、俺ムリヤリ、ドラムやることになっちまって……。もうパン焼き器抱いて風呂入るしかネェよ」 馬鹿っ早まるな! 「助けてくれよう。オマエしか頼れるヤツはいねぇんだよ……」 っち、仕方ねェな。 「お、恩に着るぜェ坂田の旦那ぁ! 早速だがこのMDの曲、ドラムを耳コピしておくれよ!」

しかしまあ僕も音楽言うても高校の頃まで吹奏楽部に在籍して、一応ドラムもぺちぺち叩けますよう程度。あれから何年も経って用語もぼろぼろ忘れている。できるかなー思って聴いてみたら、ムチャクチャやった。こんなんマトモに聴きとってコピーで出来るわけない。中にはどう聴いても手が普通の16分なのに足が3連符で叩いてるところもある。それをドラマーに転進して数ヶ月という男が恐れ多くも“コピー”しようとは。だいたい途中で拍が変則的に変わるっぽいじゃん? 「え、そうなの?」 ……ドラム音はともかく、基本の拍子ぐらい気づけよ。拍の基準が判らんから他のパートとすり合わせないと。他のパートの楽譜は? 「無い。みんなで耳コピ中」 ……。おまえさ、ひょっとして、この曲歌詞が英語だけど 「誰もわからん」

スタンド使いスタンド使い同士引かれ合う。アホはアホ同士引かれ合う。僕はトンでもないアホの台風に巻き込まれているのだった。だいたいこんなドラムにスコアもなにもあったもんじゃない。自分の意思でリズムを作ってるうちにオリジナルに近づけたらいいな、的なものじゃないんか? 殆どやる気を無くし、それでも最初の20小節ぐらいをテキトーに書いて渡したら、ネコにマタタビマリファナをいっぺんにかがせたような悦びかたで辺りを駆けずりまわって、飛んで帰っていったのだった。

それから数日。掲示板に熊坂からの書き込みがあった。手に入ったスコアと僕のコピー譜が全然違うと。所詮貴様の耳はその程度、と。

ふ ざ け る な。

あのさ、僕、なんか悪いことした? 一方的に頼まれて、出来ないよってちゃんと言ったのにそれでも無理にやってくれ言われて、仕方なくお茶濁す程度でリズムを作って、それで十分って言ってたのに、スコアが手に入った瞬間、馬鹿だの無能だの早漏だのと! なんでよっ チクショー! パン焼き器抱いて風呂入ってやる!

  • 朝ゼリー。
  • 昼食べず。
  • 夜サンドウィッチ。
  • 深夜コンビニ弁当。げんなり。