テレビ:御宿かわせみ

NHKの時代劇。基本的に良いドラマなのはわかってるんだが、どうも今回の演出は生理的に許せなかった。いまから凄く的外れなのを承知で書きます。
当時の風習や制度、更には父を思う気持ちゆえに、恋を遂げられなかった少女が、あれやこれやあって、朝、顔に痣を作ったまま部屋に立っている。そんな少女に向って外の男が、パンパンと二度拍手を打って拝み、ぴしゃりと障子を閉める。そして少女は狂ったように暴れまわり、父親をなじりけたぐり、裸足で街をさまよったすえ川に身を投げる(少女は助かるが)。
僕の見たところ、これは悲劇などという軽薄な言葉では言い表せない、胸を抉る悪夢のような一連のシーンだ。ところが、障子がとじた場面から、BGMとして女性歌手による小奇麗な主題歌が挿入される。まるでこのシーンが、美しい悲恋の物語であるかのように。街角の小さな人間模様であるかのように。
これは21世紀に放映されているドラマである。現代の俳優が現代風の解釈・アレンジをした時代人の演技をし、テーマも21世紀の人間が理解できるものだ。それでなぜ、このような甘い演出をさせてしまうのか。途方も無い人生の矛盾を背負い、身を投げた少女の苦しみが、時代劇エンターテイメントだから? 甘ったるい悲恋の恋愛と解釈できるから? この情況を作り出した原作者の意図は知らない。また、NHKに時代劇の皮をかぶった硬派社会派ドラマを作れというわけでもない。が、このテレビの演出はあまりに軽薄過ぎると思う。
テレビドラマが視聴者に与えるべき感動には、おばちゃんがウンウン可哀想にネ失恋って哀しいわネ的な感動だけでなく、もっとズンと心に辛く重くのしかかる、深く黒い感動もあっていいはずだ。現にアメリカのクオリティドラマの多くは恒常的にそれを与えてくれる。天下のNHK製ドラマが、立派な原作と立派な俳優を持ちながらも、そこから逃げているのは、少し許しがたい。